耳から情報を得る時代へ、音声(Voice UX)デザイナーの可能性
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私たちはいつも音の中で生活している。
——京谷さんが「音声デザイン」に興味を持った理由をおしえてください。
京谷:小さい頃から音楽が大好きで。いまでもFESとかによく行ってます。大学も音声とデザインを組み合わせて制作物を作っていました。 私自身が、音に心や気持ちを動かされてきたので、音声には人を動かす力があるのではないか?と純粋に興味があったんです。
——人の心を動かしてしまう音声の魅力ってどんなところなんですか?
京谷:何気なく生活していると、当たり前になって気付かないんですが、音声は私たちの生活に根付いているんです。
例えば、電車のホーム音。言葉は無くてもあの音を聴くと、「動けっ!危ないっ!」みたいに感じるじゃないですか。音をうまく活用することで、実は私たちの生活は良くなっているんです。
実は、他にも音で生活を良くしている事例はたくさん存在しています。
——たしかに!言葉が無い「音」に対してつい動いてしまいそうになることあります。
京谷:なので、音とか音声に技術を掛け合わせることに対して、ものすごい可能性があるんです。
数年前に見た映画で、未来の音声を題材にした映画あるんです。主人公と人工知能が音声によって、常に繋がった未来未来の映画なんですが、主人公の男性に合わせて、人工知能がどんどん最適化されていて、音声でその人に必要な情報を伝えているんです。
この映画を見た時に、これからは音声が情報発信の鍵になると実感しました。情報量が人間の判断できる量を遥かに超えてしまったので、これからの時代は、生活の各シーンに合った情報を音声で届ける世界が現実になると感じています。そのために、日々VUIで試行錯誤しています。
もう目からのインプットだけでは追いつけない。
——これからもっと情報量が増えたら、機械的にレコメンドしてもらわないと情報収集は難しいかも知れないですね。
京谷:そうですね。そして目からの情報のインプットにも限界が来ると思うんです。そこで重要になるのが、耳からインプットする情報です。
——耳からの情報のインプットですか?
京谷:そう、耳からの情報のインプットです。目を使ったインプットが出来ない時間って結構あるんです。例えば、歩いて通勤しているときや、満員電車などの通勤時間。あとは料理をしている時間とか。簡単な仕事をしている時や寝る前なんかは耳での情報のインプットに向いています。
情報が多くなった時に、インプットの方法を増やすことは必然的に重要になってくると思います。
——なるほど。情報が多くなったらインプットの方法を増やせばいいんですね。
京谷:そうそう、情報は耳からも手に入れられるんです。実はアメリカでは、すでにブログよりもポットキャストの方が検索数も多くなってるくらいなんです。
——そうなんですか!
京谷:そうなんです(笑)だから、耳から情報を得る習慣を付けないと、どんどん情報に置いていかれるかも知れません。
——でも、生活に音声の情報が浸透してるとは感じません。どうやって音声メディアは一般化していくと考えてるんですか?
京谷:スマートスピーカーが足掛かりになると思います。既にスマートスピーカーは各社から販売されていて、どんどん音声中心の世界の実現に向かっているのを肌で日々感じていますね。
——そうなんですか。
ユーザーに求められる良い音声配信とは?
——ここからは、少し音声デザインのお話をしていきたいのですが、もし、たくさんの音声が配信されると仮定したら、どんな音声メディアが必要とされていくんでしょうか?
京谷:私たちが提供している音声配信は、主に人の生の声で配信しているので、声だけじゃなくてその人の人間性まで届くんです。同じ言葉を言ってても、それを誰が声に出すか?どんな口調でどんな言葉を使うか?によって同じ言葉でも全く別のものになるんです。
他にも、毎日その人の声を聴いていると、今日は機嫌がいいんだなあ。とか、疲れてるんだな〜というのが分かってくるんです。音声ってたくさんのことを手軽に伝えられるんです。
そんな声の強みを理解した上で配信されている音声コンテンツは強いと思います。
——なるほど。では、ちょっと話が変わりますが、声の強みを活かすためにどんなデザインを意識しているんですか?
京谷:たとえばVoicyだと、あえて「声」を編集せずに発信できるプラットフォームにデザインしています。パーソナリティがそれぞれ自分で録音して、そのまま発信している。つまり、音声メディアってそのまま発信してもいい、という価値観を作ることを意識しましたね。
——なんでその価値観を作ろうと思ったんですか?
京谷:音声メディアといえばラジオを思い浮かべると思うんですけど、あれは、台本があったり、編集が入っているんです。Voicyは一切そういうのしていないんです。なので、これまで表現出来なかったリアルなナマの声、声色、話しているときの環境とか、ぜんぶを表現されるデザインを心がけました。
——作られたきれいな音声は必要ないと。
京谷:そう。話していて急に間が空いたっていいし、後ろで救急車の音がしてもいい。つっかえたとしても言い直せばそれでいいし。整備されたルール通りにぜんぜんしないことが魅力になる。その人の人間味を重要にしたかったんです。あとは、圧倒的に簡単に音声を伝えられるサービスをデザインすることを大事にしています。
——たしかに、作られていない素の音声だからこそ聴きたいのかもしれません。
京谷:そうなんです。Voicyは人を届けるメディアっていうところですね。
——では、文字のメディアとの棲み分けはどう考えていますか?
京谷:単に情報を取得したいなら、目で確認できる情報の方が便利なことも当然あります。逆に耳で取得した情報の方が良いケースも分かっているので、それぞれの棲み分けは重要ですね。
——確かに、文字のメディアも持った上で、簡単に音声でも収録できて配信できれば発信の方法は広がりますね。
京谷:そうですね。Voicyのユーザーの方には、簡単で作り込まれてないリアルな配信がとっても好評なので、そこの部分はもっとデザインしていきたいですね。
——でも、簡単に音声でも収録できて配信できるようにって、結構思い切ってますよね。
京谷:今までの音声配信は、ラジオが主流だったのでそうかもしれない。
以前に、作られた音声か、そうじゃない音声か?どうデザインすべきかするかを話し合った時に、機械音と人のナマ声は何が違うのか?という議論になったんです。そのときに分かったのは、機械音とか、お手本のようにきれいに読みすぎると人の心に刺さらないことでした。
——それは声の個性が感じられないからですか?
京谷:そうですね。スマートスピーカーとかスマホとかPCとかって機械だから、逆にそこには思いっきり感情をのせたコンテンツじゃないと人に刺さらないのかもしれません。熱量の伝わりやすさ、みたいな。いまは、そこの音声をデザインすることに注力しています。
——簡単に今の想いを情報にして発信できるの音声にしかできない魅力ですね。
京谷:だからこそ、音声はこれから重要な情報発信のツールになるとおもうんです。いまはまだ黎明期で、音声コンテンツの出し方の正解もわかっていない状態です。勉強会とかもしてるんですけど、みんなわからないからそれがすごい楽しくて。どうやったら良くなるか、を考えている最中です。
——これから音声が生活をどう変えるのか?可能性のあるジャンルですね!
京谷:代表の緒方は、声からはじまって「五感のすべてをとっていく」って決めて起業したんですよね。声って実はとても身体性のあるものだってよく話してます。人の体から出して、相手の体に入っていくものだと。
SNSや情報って温かみを感じる事が少ないんですが、これからは音声で情報を温かく届けていける世界の実現を目指したいです。ネットが使えなくても、音声でみんなの生活を豊かにしていけるような仕組みをデザインしていきたいです。
Voicyの目指す未来
——具体的にいまVoicyをやっていて何が課題って感じてますか?
京谷:課題はたくさんあります。その中でもよく考えているのは、とにかくより良い音声体験をデザインすることを考えていますね。それは発信者も受信者も双方という意味で。
きっと発信者は、受信者に「聴いてるよ」「すごいおもしろかった」みたいな何らかの反応がモチベーションにつながると思うんですけど、聞いている方はどうしても受動的な体験になっているので、そこをどう反応してもらえるかの設計は悩んでますね。そもそも、受動的な体験のみだから心地いいのに、そこを反応させる必要ってあるのか、とかも考える必要があるし……。
——発信者にとっても受け手にとっても両方にとって心地いい体験ですか。実現できたら素敵なことですね。
京谷:そうですね。まだまだ誰もやっていないことなので、それはすごく楽しいです。あとは、やはりいまみんなスマホを見て下を向いてしまっているので、音声メディアがもっとたくさんできて、少しでも上を向いて歩いてくれる人が増えたらいいなと。そういう世界の方が素敵だなって思ってます! あらゆるモノがIoT化して、音声メディアがますます増えれば、そうなると思っているので。
——心地の良い音声が染み込んできて、より良い生活が実現されるといいですね。
京谷:ほんとその通りです。当たり前すぎる声っていう存在をいまもう一度見直して、より良くデザインしていくのがいまの私の仕事です。